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20120226

落語の息

【カテゴリ:日常】

高校時代に、文化鑑賞だかなんだかいう行事があって、一学年全クラス揃って、落語を観に行ったことがある。
僕が通っていた高校は北海道の田舎町だったけれど、その時、たまたま落語家の三遊亭楽太郎さん(現在の三遊亭円楽さん)が地方巡業でこの町に来ており、楽太郎さんの落語を観ることが出来た。
落語を聞くなんていうことはその時が初めてで、今でも落語について詳しくは知らないが“枕”と言うんだろうか。楽太郎さんが高座の冒頭でこんなことを話していたのが良く印象に残っている。

「え、お客さんにも、まあなんていいますか、レベルというものがございまして、我々噺家というのはどこへ行っても同じ噺をするもんじゃございません。やはりその土地にあった水というものがございまして、噺も同じなんです。私の場合、その日に話すことというのは前もって用意しているわけではなく、会場に着いて、控室に入り、舞台の袖からチラッと客席を確認いたします。そうして、ああ、今日はだいたいこんなお客さんだから、こういう噺をしようと、ええ、その時々で決めるんでありまして、例えば上のお客様には上の噺というものがございます。それで今日も、先ほど、開演前に舞台の袖から皆様のお顔を確認させていただきました。それで、ええと、今日のお客様方はですね、レベルで言わせてもらいますと○○○でございまして…」

さあ、ここで急にクイズです。
この後、楽太郎さんの言った「客のレベル」で会場に小笑いが起こり、枕のつかみはしっかりと成功します。笑点でもおなじみ、三遊亭楽太郎さんはこの時お客のレベルをなんと表現したでしょう?
答えは三択です。

① 上の上
② 中の下
③ 下の中
(答えはすぐ下よ)





答えは②です。「お客様のレベルは、中の下です」と表現したのでした。
これが何故印象に残っているかというと、その「中の下」という表現は普通できない。出来そうで、なかなか出来ない。だからきっと印象に残っているのだろう。
例えば、これが名のある寄席や演芸場であった場合、「中の下」なんて言ったら怒られる。上手の客に「偉くなったのう、楽ちゃん」ぐらい言われるであろう。
ところがここは、北海道の田舎町。定小屋ではなく1回きりの地方巡業。観客の多くは牧場や町役場での勤め人、寂れた商店街の店主、または年金で生活する無職のおじいさんおばあさんといった方々であったろう。おまけに会場の広大な1エリアを自分たち有象無象の農業高校生が占めている。楽太郎さんはぎょっとしたことであろう。
「こらあ、下の中や」と。
こらあ下や、と思わなかったらおかしい。その日の客層は、明らかに下であったはずだった。
そう、ぼくらは決して中の下と言えるお客さんではなかったのである。
よく言って、下の上。落語なんぞ聴いたことのない、また興味もない高校生が多い分、下の中と言って差し支えない。
で、だからこそ、客のレベルなんて話を振られた時点で僕ら客側と言うのは、自分たちが決して上ランクの客でないことは分かっている。
しかし、下だとも思いたくない。下とは思っていない。人間、中流意識で生きている。ほとんどの下流人が、自分は中流だと信じて生きている。
だから、中。
中は外せないのだ。
下と言われたら、いくら本当に我々が下でも落胆する。もしくは憤慨する。
だからこそ、中。
しかし、中の上ではないことも分かっている。
ここは国道が一本しか通っていない海辺の田舎町である。いくらなんでも中の上と言われれば、それがお世辞だと分かる。中の上はいけない。
では中の中はどうか?
これは明らかに中途半端である。中の中は絶対に使ってはいけない。あんたらは中の中ですよ。そんなものは下より馬鹿にされている気分になる。
中の下。
観客が納得できて、楽太郎さんがよいしょする。そのぎりぎりの接点、それが中の下である。なんといっても、この中の下には、カタルシスがあるのだ。
田舎に住む人々にとって、都会と比べて、自分たちが平均より上であるという驕りはない。むしろ、卑下する気持ちがある。けれど、下だとも思っていない。いくら田舎だからって、そこまで落ちぶれちゃいないよという気概がある。
そこで中の下。あたし、めっちゃすっきりしたわ。楽さんが中の下って言ってくれたおかげでなんか胸のつかえとれたわー、痒いとこ掻いてもらったわーつって、客は小笑いしたのである。
楽太郎さんが「中の・・・」と言った時点で、客はこころ身を前に乗り出して「上?中?下?」と次の一声に集中したのであって、「・・・下でございまして」で客、納得の小笑い。
やるぅって感じって感じぃ。
で、中の下と言いつつも、その時の噺が結局、下ネタだったという。うんこネタだったという。
それって下じゃん。
中の下と言いつつも、噺の内容は下の中レベルに照準を合わせている。
というのは、これ、楽太郎さん、一流の抜け目なさであって、やはり上手はすごいよ、わてら掌でころころ転がされとりまっせ。なんつって大笑いしたのであった。はっけよいよい。

大久保利通像

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