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20120708

健康とマッサージ機

【カテゴリ:日常】

去年の今頃、2011年の初夏。自分の働くスーパーの駐車場に、十六畳ほどのプレハブ小屋が建てられた。
「なんだ、これは。ここで何か地元の野菜や海産物でも売るのか」
てっきり、スーパーの経営者が建てた生産物直売所的な施設かと思ったのだが、それから数日したある日、プレハブ小屋は思いもよらぬ商売を始めた。
健康マッサージ機の販売である。
何故に健康マッサージ機?と思い、上司に聞いてみると、どうやら健康マッサージ機の業者から「お客さんも増えますから、場所を貸してもらえませんか」という打診があったらしく、駐車場の一角を貸し出したのだそうだ。
この健康マッサージ機販売のプレハブ小屋は、大盛況だった。
大した人通りのない田舎町のスーパーで、朝から行列が出来るほどの人気ぶり。それによるスーパーの売上相乗効果も確かにあった。スーパー目的ではなく、この健康マッサージ機の店を目的に足を運ぶお客さんが多く、ついでにスーパーで買い物していってくれる。要するに、おこぼれ効果だ。
なぜ、この健康マッサージ機の店がそれほど大盛況だったかというと、わけがある。
無料体験をやっていたのだ。
健康マッサージ機の無料体験、と言っても、よく電器屋の一角にぽつんと置いてあるマッサージチェアのお試しみたいなものでなく、もっと力の入ったもの。そのプレハブ小屋が丸々、無料体験会場となっており、毎日毎日、そこに足を運ぶお客さんが絶えなかったのである。お客さんの多くは、お年寄りである。暇を持て余し、膝や腰を痛めたお年寄りが田舎町にはとにかく多い。そんなお年寄りを相手に商売をしているのである。
自分も実際に一度だけ行ってみた。プレハブ小屋の中に入ると、30手前ぐらいだろうか、自分と同い歳くらいの男性係員が「いらっしゃいませ。初めてですか?」と声をかけてきた。
「初めてです」と答えると、「それではカードをお作りしますね」と丁寧に、カードに名前を記入してスタンプを押し、渡してくれる。
「一度来店していただくと、カードに一つスタンプを押します。毎日いらっしゃってくださいね。毎日続ければ、必ず効果が出てきますから」と言って、僕をマッサージ機に案内してくれた。市販のマッサージチェアのようなものに、何やらパッドが敷いてある。そのパッドを指さし、係員が説明してくれる。
「このパッドから微弱な電気が流れていて、この電気が体の中を駆け巡り、血栓が出来て詰まっていた血管を回復したり、脳内梗塞や心筋梗塞を防いでくれるんです。偏頭痛にもめっちゃ効果がありますよ」
驚いたのは、そのプレハブ小屋の中が一種の教室めいた雰囲気になっており、係員がホワイトボードを使って、丁寧に脳内梗塞のメカニズムや、マッサージ機の効能を説明していたことだ。自分の周りに座っていたお年寄りは、係員の「わかりましたか?」という一言に、ウンウンと素直にうなづいている。係員とお年寄りが、先生と生徒のような関係になっていた。
どうも奇妙である。
その店自体の雰囲気もさることながら、何より奇妙なのは、マッサージ機の無料体験と謳いつつも、肝心のマッサージ機の値段が分からず、販売している様子がないことだ。
後日、先の上司に「あのマッサージ機屋、変じゃないですか?マッサージ機、売ってないですよ」と言うと、上司は「そんなことはない」と言った。
「でも、まったく売っている気配がなかったですよ」
「これから売るんだろう」
「え?一台いくらなんですか?」
「う~ん、百万円らしい」
百万っ??!つって、自分の目玉はくるくるぴょ~んと前に飛び出しそうになったのだが、かろうじてそれを手で抑えながら
「百万って、それ詐欺じゃないですか!」と叫ぶと
「まあ、詐欺みたいなもんだな」と上司は言う。
自分は何故にそんな詐欺みたいな店を呼んだのかと上司に聞いてみたのだが、上司が言うには「いろいろなスーパーの店長にも聞いたんだけど、あの店はクレームがないんだよ」とのこと。クレームがないというのは、つまり、詐欺ではない。百万円のマッサージ機に対して、誰も文句を言う人がいないという。
この無料マッサージ機屋の商売システムというのは次のようなものである。
①まず、お年寄りの多そうな田舎町の、人が集まりやすい場所(スーパー)に土地を借りて、プレハブ小屋の店を出す。
②その次に、商品をとにかく無料体験させる。また、その時に客に次回来店の意識付けをするため、カードを作成する。教室的な雰囲気を作り、お年寄りの集会所にしてしまう。マッサージ機の値段などの話は一切しない。
③それから数か月は、ずっと無料体験だけを続ける。口コミにより、客はどんどん増えていく。(実際にプレハブ小屋はその後、倍の大きさに増築された。また、「あそこに通っているうちに体が楽になった」というお年寄りの話を何度も聞いた。それまで眉唾で見ていた人たちも、「本当に効果があるらしいよ」と言い出した)
④夏が過ぎ、秋になる頃、突然、店が閉店した。それまで足を運んでいた多くのお客さんはがっかりした。もうあの楽しい時間がなくなってしまうのか、ときっと多くのお年寄りが思ったことだろう。係員の男性は二人いたが、二人とも爽やかキャラで、この二人を慕って店を訪れるようになった客も大勢いた。一人がたまたま埼玉出身で同郷ということもあり話していたのだが、この人が「昼ごはんはいらないんです」と言うから「なんでですか?」と聞くと、「お客さんがいつも買ってきてくれるんですよ」と話していたのが印象的だった。それほどお客さんから好かれていたのだ。プレハブ小屋の中にはお客さんにもらったという似顔絵が飾られていた。
⑤それから数日後、閉店していた店が急に再開した。落胆していた多くのお客さんが店を訪れた。が、この時の再開は無料体験ではなかった。ここではじめてマッサージ機屋はマッサージ機の販売を始めたのである。
「おばあちゃん、ここもあと一週間で終わりなんだけどね」
「え?そうなのかい。寂しくなるね。今までありがとうね」
「いやいや、こちらこそありがとうおばあちゃん。でね、マッサージ機なんだけど、どうする?買う?」
「そうだねえ、あんたにはお世話になったからねえ。いくらなんだい?」
「百万円なんだけど、こっちのタイプなら六十万円なんだ。どうする?」
田舎のお年寄りは貯金がある。マッサージ機はよく売れたそうだ。二人が最後にスーパーを訪れ、僕の上司に「お世話になりました」と挨拶にきた。
「いくら売れたんだ?」と上司が二人に問うと、係員の男性は
「おかげさまで八十台売れました」と言って、帰っていった。
「八千万円ですか?」とすぐ横でその会話を聴いていた僕が上司に問うと、
上司は少しだけ深刻そうな顔をして「そうなるな」と言った。
「三ヶ月でですか?」
「そうなるな」
「一月、2700万。え?スーパーの売り上げより多くないですか?」
「そうなるか、な」
そして、スーパーの売り上げは、また数か月前と同じに戻ったのである。
さて、では肝心な、マッサージ機を購入したお年寄りは健康になったのであろうか。実際に使用した僕の感想を言わせてもらえば、あの微弱な電気を流すだかいう電子器具にたいした効果はない。おそらく、腰を温める程度のものだろう。
ただ、もしかしたらお年寄りたちは健康になったかもしれないと思うのである。だって、あのプレハブ小屋に通うお年寄りたちは確かに生き生きしていたもの。それで思ったのである。
健康って、一体、なんなのだろう?

花火の帰り道


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